めたることならん、病《やまい》と称し飄然《ひょうぜん》熱海《あたみ》に去りて容易《ようい》に帰らず、使を以て小栗に申出ずるよう江戸に浅田宗伯《あさだそうはく》という名医《めいい》ありと聞く、ぜひその診察を乞《こ》いたしとの請求に、此方《このほう》にては仏公使が浅田の診察《しんさつ》を乞《こ》うは日本の名誉《めいよ》なりとの考にて、早速《さっそく》これを許《ゆる》し宗伯を熱海に遣《つか》わすこととなり、爾来《じらい》浅田はしばしば熱海に往復《おうふく》して公使を診察《しんさつ》せり。浅田が大医《たいい》の名を博《はく》して大《おおい》に流行したるはこの評判《ひょうばん》高かりしが為《ため》なりという。
さてロセツが何故《なにゆえ》に浅田を指名して診察《しんさつ》を求《もと》めたるやというに、診察とは口実《こうじつ》のみ、公使はかねて浅田が小栗に信用あるを探知《たんち》し、治療《ちりょう》に託してこれに親《した》しみ、浅田を介《かい》して小栗との間に、交通《こうつう》を開き事を謀《はか》りたる者にて、流石《さすが》は外交家の手腕《しゅわん》を見るべし。かくて事の漸《ようや》く進むや外国奉
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