《ようい》ならしめたるは、時勢《じせい》の然《しか》らしむるところとは申しながら、そもそも勝氏が一身を以て東西の間に奔走《ほんそう》周旋《しゅうせん》し、内外の困難《こんなん》に当《あた》り円滑《えんかつ》に事を纒《まと》めたるがためにして、その苦心《くしん》の尋常《じんじょう》ならざると、その功徳《こうとく》の大《だい》なるとは、これを争《あらそ》う者あるべからず、明《あきらか》に認《みと》むるところなれども、日本の武士道《ぶしどう》を以てすれば如何《いか》にしても忍《しの》ぶべからざるの場合を忍んで、あえてその奇功《きこう》を収《おさ》めたる以上は、我事《わがこと》すでに了《おわ》れりとし主家の結末と共に進退《しんたい》を決し、たとい身に墨染《すみぞめ》の衣《ころも》を纒《まと》わざるも心は全く浮世《うきよ》の栄辱《えいじょく》を外《ほか》にして片山里《かたやまざと》に引籠《ひきこも》り静に余生《よせい》を送るの決断《けつだん》に出でたらば、世間においても真実、天下の為《た》めに一身を犠牲《ぎせい》にしたるその苦衷《くちゅう》苦節《くせつ》を諒《りょう》して、一点の非難《ひなん》を
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