ろならん。
 今|仮《か》りに一歩を譲《ゆず》り、幕末に際《さい》して外国《がいこく》干渉《かんしょう》の憂《うれい》ありしとせんか、その機会《きかい》は官軍《かんぐん》東下《とうか》、徳川|顛覆《てんぷく》の場合にあらずして、むしろ長州征伐《ちょうしゅうせいばつ》の時にありしならん。長州征伐は幕府|創立《そうりつ》以来の大騒動《だいそうどう》にして、前後数年の久《ひさ》しきにわたり目的《もくてき》を達するを得ず、徳川三百年の積威《せきい》はこれがために失墜《しっつい》し、大名中にもこれより幕命《ばくめい》を聞かざるものあるに至りし始末《しまつ》なれば、果《はた》して外国人に干渉《かんしょう》の意あらんにはこの機会《きかい》こそ逸《いっ》すべからざるはずなるに、然《しか》るに当時外人の挙動《きょどう》を見れば、別に異《こと》なりたる様子《ようす》もなく、長州|騒動《そうどう》の沙汰《さた》のごとき、一般にこれを馬耳東風《ばじとうふう》に付し去るの有様《ありさま》なりき。
 すなわち彼等は長州が勝《か》つも徳川が負《ま》くるも毫《ごう》も心に関《かん》せず、心に関するところはただ利益《り
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