ふよう》を問わず、乞《こ》わるるまま一々|調印《ちょういん》したるにぞ、小栗もほとんど当惑《とうわく》せりという。仏公使が幕府に対するの債権《さいけん》とはこれ等の代価《だいか》を指《さ》したる者なり。
 かかる次第《しだい》にして小栗等が仏人を延《ひ》いて種々|計画《けいかく》したるは事実《じじつ》なれども、その計画は造船所の設立、陸軍編制等の事にして、専《もっぱ》ら軍備《ぐんび》を整うるの目的《もくてき》に外ならず。すなわち明治政府において外国の金《かね》を借り、またその人を雇《やと》うて鉄道海軍の事を計画《けいかく》したると毫《ごう》も異《こと》なるところなし。小栗は幕末に生れたりといえども、その精神《せいしん》気魄《きはく》純然たる当年の三河武士《みかわぶし》なり。徳川の存《そん》する限りは一日にてもその事《つか》うるところに忠ならんことを勉《つと》め、鞠躬《きっきゅう》尽瘁《じんすい》、終《つい》に身を以てこれに殉《じゅん》じたるものなり。外国の力を仮《か》りて政府を保存《ほぞん》せんと謀《はか》りたりとの評《ひょう》の如《ごと》きは、決《けっ》して甘受《かんじゅ》せざるとこ
前へ 次へ
全34ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石河 幹明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング