ら、眼をビク/\さして、へい/\言つただねえか。』
『アハヽヽヽ、茂右衞門の野郎、へへののもへ野郎、今夜はほんとにいゝ氣持だつけな。』
『こらお父つアん、頭をあげて、もつと飮めよ、何も心配することアねえど。』
『おしんがことア、俺がいゝとこへ嫁に世話してやつかんな、餓鬼の二人や三人なしたつて、若いもんだもの、屁でもねえや。』
『俺が嚊にしてやるべよ。』
『さうだ、お前に世話してやるべ。』
『世話して貰はねえでも、もうはアちやんとやつてらな、なア新公。』
『馬鹿ぬかすな、おら手もさはつたことはねえど。』
『アハヽヽ、アハヽヽヽ。』と彼等はたゞ、久しぶりに酒にありつけたことを喜んでゐる。
『おらしん[#「しん」に傍点]はほんとに可哀相な奴だアよ。』とおしんの父親は首を振りながら言ひ出す、『今だからいふけんど、人の餓鬼を二人もなすし、嫁に行つちやおん出されるし、おら、ほんとにしん[#「しん」に傍点]がことぢや苦勞しただと。そんだがおらしん[#「しん」に傍点]ばかりが惡いでねえよ。みんな惡いだ。みんながよつてたかつて、おらしん[#「しん」に傍点]をたうとうあんな目に會はしまつただ。みんなが惡い
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