泥の雨
下村千秋
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)臍緒《へそな》だよ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つた。
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ます/\重くなつて
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日が暮れると、北の空に山のやうに盛り上つた黒雲の中で雷光が閃めいた。キラツと閃めく度にキーンといふ響きが大空に傳はるやうな氣がした。
由藏は仕事に切りをつけると、畑の隅に腰を下して煙草をふかし始めた。彼は死にかけてゐる親爺のことを考へると家へかへることを一刻も延ばしたかつた。けれど妻のおさわが、親爺の枕元へ殊勝らしく坐つて、その頭などを揉んでゐやしないかと想ふとぢつとしてはゐられなかつた。
「畜生、片足を穴へ突つ込んでゐるのも知りやがらねえで」
由藏は親爺にともおさわにともつかない言ひ方をしてべつと唾を吐いた。やがて煙草入れを腰にぶつこむと、萬能を肩にして立ち上つた。
道端のくさむらの中では
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