晝のきりきりす[#「きりきりす」はママ]がまだ啼いてゐた。日中、ぢりぢりと燒かれた道の土のほとぼりが、むかむかしてゐる由藏の胸を厭に圧迫して吐氣を催させた。咽喉は痛いほど乾き切つてゐた。
妻のおさわが親爺の妻にもなつてゐることを知つたのはその半年前であつた。親爺の妻――由藏の繼母はその一年前に死んでゐた。その時親爺は六十八であつた。で嫉妬深い由藏もそれだけは安心して、妻を親爺の傍に置いて十日二十日の出稼ぎに出た。そうした或る夜遲く由藏がかへつて來ると、内から人の肌をなぐるらしい音がぴしりぴしりと聞えて來た。それにつゞいて、親爺が由藏にはとても聞いてゐられないことを繰り返し言つてゐるのが聞えて來た。
由藏がごとりと戸を開けて入つて行くと、親爺は乱杭のやうな黄ろい歯を現はして、「アフ、アフ、アフ」といふやうな笑ひ方をした。それから、親を親とも思はねえ奴はなぐるより仕方はねえといふようなことを言つて布團の中へもぐり込んだ。おさわははだかつた胸を掻き合せながら土間の中をうろうろした。由藏は何んにも言はずにおさわを力任せに突き倒した。それでもおさわはぐつとも言はなかつた。
その時由藏は、布
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