淫らな心がやつぱり堪らなかつた。そのことで由藏はしよつちうおさわを酷い目に逢はした。いつしよになつてから七年目に由藏夫婦は船頭を止めて村の親爺の家へ歸つて來なければならなくなつた。それは由藏が賭博に負けて持ち船まで取られて了つたためであつた。
親爺は由藏がかへると、由藏を連れて村の一軒一軒を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つた。
「どうかよろしく頼んます、村の為めならどんなこつてもさせますで」と親爺は懇ろに頭を下げて、青洟をたらした子供等にまで仲間入りを頼んだ。このとき由藏は、この親爺はやつぱりほんとうの親爺かも知れないと思つた。そしてさう思ふ由藏の心を壞すやうなことを由藏と面と向つて言ふ村の者もなくなつた。
由藏は親爺に頼んで貰つて、僅かばかりの小作をした。それからおさわと二人で村の被庸とりをした。由藏は決しておさわ一人を稼ぎには出さなかつた。
「由公のやきもちは煮ても食へねえど」と村の若い者は言つた。かうしたことは彼が船頭をしてゐる時も仲間からよく言はれた。さう言ひながら村の若い者だちは由藏をやかせて怒らせることを面白がつた。由藏はその度に只おさわばかりを擲つたり蹴つ
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