光がひつきりなしに閃めた。雷鳴はドヽヽヽヽと響きのない音をつゞけた。
狹い田甫を渡つて蘭※[#「てへん+茶」、72−18]場へ着いた。
由藏は棺を下さうとして兩足をうんと踏ん張つた。そのとたん、棺の中の親爺が手足を突つ張つたかのやうに棺がぐんと重くなつた。由藏はそのまゝべたりと尻餅をついた。同時に繩が切れて棺は横倒しに倒れた。由藏は立つて棺を起した。と、家を出るとき慌てゝ打ちつけた蓋の釘が、親爺の頭に押し拔かれてゐた。ぐらりと動いた白髮のうなじが見えた。雨は棺の中にもどーつと流れ込んだ。彼は慌てゝ萬能の峯で釘を打ちつけた。
由藏は蘭※[#「てへん+茶」、73−5]場の北の隅の藪の中を掘り始めた。軽い萬能では繁り盛つてゐる夏草の根が容易に切れなかつた。辛うじて三尺四方位の穴を一尺ほど掘つた。しかしそれからはどんなに掘つても穴は深まらなかつた。周圍に掘り上げた土が瀧なす雨に押し流されて、掘る傍から穴の底を埋めて行く。
由藏はそれでも根氣よく掘つた。泥が身体中にまみれて、まるで土の中から出て来た盲者のやうな姿になつた。眼だけが火のやうに光つた。
耳をつんざくやうな雷鳴が二つつゞけて
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