に怯えてしまつた。
やがて親爺は二度ほどがくがくと下顎を動かすと呼吸を止めた。おさわは由藏の顏をぢつと見てからまた親爺の顏に見入つた。
由藏の全身には針のやうな逆毛がざらざらに立つたやうな氣がした。それは由藏の身体を全く硬張らしてしまつた。彼は眼球が飛び出したのかと思はれるやうに、兩眼をギロリと開いて、家の隅の暗い所を見詰めてゐた。
由藏はボロ布を入れて置いた箱を毀してそれで棺を作つた。彼は、その夜のうちに親爺の屍を土に埋めてしまはないと、親爺が言つた通り死に神がとりついて來て自分を殺すやうな氣がして來たからであつた。ひとつは自分が手にかけて親爺を殺したやうに感じられて來たので、その罪を一刻も早く土の中に隱さねばならないやうに思はれて來たからであつた。
立棺を作つて屍を入れた。と、頭の半分がはみ出した。彼は荒繩を屍の膝の下から項へ掛けてぎゆつとしめた。それから顏を下に頭の後部を蓋で押しつけて釘を打ちつけた。打ちつけてゐるうちに古い板はバリツと割れた。親爺の白髮のうなじが現はれてぶるると顫へた。
「おさわ、この頭をおさへてゐねえか」と由藏は怒声で言つて、傍につつ立つてゐるおさわの
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