もりおおせたなら、もう、おまえのからだから、危険《きけん》なことは消《き》えさってしまう。おまえはもう、おそろしいまぼろしを、見ないようになるのじゃ。」
と、ねんごろにいってきかせました。

     五

 法一《ほういち》は、いいつけられたとおりに、えんがわにすわっていました。と、いつもの時刻《じこく》がきて、いつもの武士が、裏門《うらもん》からはいって来ました。
「法一。」
 しかし、法一は息《いき》を殺《ころ》していました。
「法一。」
 二どめの声は、おどすように聞えました。が、法師はかたく口をむすんでいました。
「法一。……こりゃへんじがないぞ。いないのか。」
と、武士は、えんがわへよって来ました。
「おや、ここにびわだけある。が、法一はいない。へんじのないのもむりはない。が、耳だけがあるぞ。使《つか》いに来たしょうこに、これを持っていこう。」
 こう武士《ぶし》はつぶやくと、法師のりょう耳は、いきなり鉄棒《てつぼう》のような指先《ゆびさき》で、ひきちぎられました。けれど法師は、声もだせませんでした。
 武士は、それでいってしまいました。

 夜がふけて、お坊《ぼう》さんは
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