うしていたら、平家の亡者《もうじゃ》の中へひきこまれ、ついには八《や》つざきにされてしまうところじゃった。もう、どこへもいってはならぬぞ。わしは、今夜《こんや》も法事《ほうじ》で、るすをするが、おまえが使《つか》いのものに、つれていかれないように、今夜は、おまえのからだを、よくまもっておかねばならぬわい。」
 そこで、法師をはだかにして、ありがたい、はんにゃしんきょうの経文《きょうもん》を、頭《あたま》から胸《むね》、胴《どう》から背《せ》、手《て》から足《あし》、はては、足《あし》のうらまで一|面《めん》に墨《すみ》くろぐろと書《か》きつけました。そしてまた、着物をきせて、お坊《ぼう》さんは、
「わしは、まもなくでかけるが、おまえはいつものえんがわにすわっていなされ。やがて、れいの武士《ぶし》が来て、おまえの名をよぶだろうが、おまえは、どんなことがあっても、だんじて返事《へんじ》をしてはならぬ。万一《まんいち》返事をしたなら、おまえのからだは、ひきさかれてしまうのだ。また人のたすけをよんでもならぬぞ。だれもたすけることはできぬのだからな。そうして、おまえがりっぱに、わしのいいつけをま
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