、寺男は力ずくで法師をひきたて、その手をしっかりにぎって、むりやりに、寺へひっぱってきました。
寺の坊《ぼう》さんは、びしょぬれになっている法師の着物をきかえさせ、あたたかいものを食《た》べさせて、できるだけ心をおちつかせました。なにかに心をうばわれたようになっていた法師は、そこでようやくわれにかえりました。そして、お坊さんや寺男が、じぶんのために、どんなに心配《しんぱい》をし、骨《ほね》をおったかをしり、たいへんすまないように思い、そこで、なにもかも、お坊さんにうちあけてしまいました。
お坊さんはそれをきくと、
「法一さん、それは、おまえのふしぎなほどに、たくみなびわ[#「びわ」に傍点]の腕《うで》まえが、おまえをそういうところへみちびいたのじゃ。芸《げい》ごとの奥《おく》に達《たっ》すると、そういうことがあるもので、これはおまえの芸道《げいどう》のためには、よろこばしいことじゃが、しかし、あぶないところじゃった。昨夜《ゆうべ》、おまえは平家《へいけ》の墓場《はかば》の前で、雨にぬれて、すわっていたそうじゃ。おまえは、なにかまぼろしを見て、そうしていたのじゃろうが、いつまでも、そ
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