ずす音がして、大きなとびらはしずかに開かれました。武士は法師の手をとって、中へはいりました。しっとりとした庭を、しばらくいくと、またおごそかな、りっぱな大げんかんと思われる前に、たちどまりました。武士はそこで、また高らかにいいました。
「ただいま、びわ法師《ほうし》、法一をつれてまいりました。」
 大げんかんのうちでは、ふすまをあける音、大戸をあける音がして、やがて、やさしい女たちの話し声が聞えてきました。その声で察《さっ》すると、その女たちは、この高貴《こうき》なおやしきの、召使《めしつか》いであることがわかりました。その召使いの女のひとりが、法師の手をやわらかにとると、こちらへと、大げんかんのうちへ案内《あんない》しました。それから、すべるようにみがきこんだ、長いろうかをいくまがりかして、かぞえきれないほどの、部屋《へや》べやの前をすぎて、やがて大広間《おおひろま》へ案内されました。そこには、かなりおおぜいの人びとが息《いき》をひそめて、いならんでいることが、そのけはいでわかりました。やわらかな衣《きぬ》ずれの音が、森《もり》の木のすれあうように聞えました。
 法師は、大広間の床《とこ》の間《ま》と、はんたいがわと思われるところに、ふっくらとしたざぶとんの上にすわらせられました。法師はきちんとすわり、持って来たびわをひきよせると、耳もとで老女《ろうじょ》らしい声がしました。
「平家《へいけ》の物語《ものがたり》――壇《だん》ノ浦《うら》を弾《だん》じてください。」

     三

 法師はしずかにびわ[#「びわ」に傍点]をとりあげました。大広間のうちは、水をうったようにしん[#「しん」に傍点]となりました。はじめは小川のせせらぎのように、かすかにかすかに鳴《な》りだし、ついで谷川《たにがわ》の岩にくだける水音のようにひびきだして、法師のあわれにも、ほがらかな声が、もれはじめました。その声は一だんごとに力を増《ま》し、泣くがように、むせぶがようにひびきわたりました。その声につれて弾《だん》ずるびわの音は、また縦横《じゅうおう》につき進む軍船《ぐんせん》の音、矢《や》のとびかうひびき、甲胄《かっちゅう》の音、つるぎの鳴《な》り、軍勢《ぐんぜい》のわめき声、大浪《おおなみ》のうなり、壇《だん》ノ浦《うら》合戦《かっせん》そのままのありさまをあらわしました。法師はもは
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