兵士と女優
オン・ワタナベ(渡辺温)

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)硝子《ガラス》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](一九二八年七月号)
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 オング君は戦争から帰って、久し振りで街を歩きました。軒並のハイカラな飾窓の硝子《ガラス》に、日やけして鳶色《とびいろ》に光っている顔をうつしてみました。高価なネクタイだのチェッコスロバキヤの硝子細工だのを売る店の様子は戦争に行く前とちっとも変っていませんでした。
「ちょいと、ちょいとってば!」
 顔に黄色い粉をはたきつけた派手な様子の娘が、オング君をうしろから呼びとめました。
「おや、ハルちゃんじゃないか。これはよいところで!」オング君は嬉しくなって、そう云いました。
「どうしたの?」と娘は訊きました。
「どうしたのって」――オング君はそこで娘の身なりをよく見ました。「君、いま、ホノルル・カフェにはいないのかい? 僕の手紙見てくれなかったのかい?」
「うん、見た。けれど、ホノルルは夙《つと》の昔に辞職しちゃった。知らないのかい?」と娘は云うのです。
「知るもんかさ」
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