「いやだなあ、ほら、そこのエハガキ屋をごらんなさい。あたしの写真が一っぱい飾ってあるぜ」
「なんだ。キネマの女優になったのか」
「うん。知らないなんて、じゃ、やっぱり戦争に行ってたのは本当だったのね」
 娘は大袈裟《おおげさ》に首をふって、感心したような溜息を吐《つ》きました。
「本当とも。だから、戦地で態々《わざわざ》写真まで撮《うつ》して送ってやったじゃないか。それに、こんなに真黒になっちゃった」オング君は、まともに娘の鼻さきへ顔をつきつけながら、そう云って笑いました。
 オング君と娘とは、それから何とか云う喫茶店でコーヒーを飲んで腰を据えました。
「活動女優って面白いかい?」とオング君はききました。
「だめさ。お金がないんだもの」と娘は答えました。
「だって、なかなか豪勢なきもの着てるじゃないか」
「盗んだも同然だよ。毎日いろんな奴を欺してばかりいるんだからね。いいきものを着てない女優なんてありっこないの」
「なぜ、スターに月給どっさり出さないのかね。まさか、みんなそう云うわけでもないだろう?」
「お金なんか沢山出さなくたって、女優はめいめいで稼ぐからいいと、会社じゃそう思って
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