このことは彼の決心に明るい光りを与えた。既に装飾部員が仕事をしている以上、「三枚の扉」の杞憂《きゆう》は抹殺していい。
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暗い冷めたい下水道
濡れて育ったアパッシュは………
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 又誰かが唱っている。彼は憂鬱な唱い手の咽喉に好感を持てた。彼は扉を押した。外に何かつかえるものがある。間隙七八寸で止まった。やや力を加えて見る。それほど力を要しないでも扉は動く様子だ。彼は押した………突然歌声は途切れて、その代りに狂おしげな叫声が伝わった………実にその刹那、扉一枚隔てた外側では、戦慄に値いする惨事が突発したのである!

        3

 都市美術社の若い装飾工の一人は、五階の欄干《てすり》に足を一本からげ、他の一本は小天使《エンゼル》の彫像の肩に載せて、猿の身軽さを保ち、彼に分担された仕事をやっていた。
 彼の脚下垂直六十呎、視線は一階中央大広間の寄木板《モザイック》張りの床に衝突する。今夜の装飾工事の中心を成すものは、その広間に築き上げられる大装飾塔だ。工事は進行しつつある! 指揮者は装飾部主任MT氏。装飾工が蟻のように群がっている。
 然し
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