ではない。マッチを摺って腕時計にかざす。七時十二分。
「何アんだ。まだ早いぜ! 三時間も寝たかと思った」
此の長方形の倉庫の一方は、ガラス窓で外界に接触し、一方は扉で売場との間を遮断している。彼は扉の方へ進んだ。
「おっと待ったり! 駄目だ! 一階の宿直室へ出る迄には途中に合計三枚の扉が邪魔をしている。その鍵を僕は持っていないと来た………」
こうして倉庫脱出は断念せざるを得なかった。ポケットの手先が冷めたい鍵の触感におびえる。彼はそれを取り出して、扉の鍵孔《キイホール》へ突込んで見る。鍵は「廻れ右」をする。扉に錠が下りたのだ。
「さて、僕はどうしたらいいんだい?」
一時間を費してその問題を研究した。彼の前に二つの方法が横たわっている――第一は即刻此処を出ることだ。困難な仕事は暗黒のビルディングの中を、手探りで三階商品券売場まで泳ぎつくことだ。宿直室への直通電話がそこの壁に彼を待っている。釦《ボタン》を押して電波を呼び醒ます。宿直員は途中三枚の扉を開けて呉れる。それから彼は宿直主任の前へ直立して、午後六時以後に起った肉体上精神上の経過を陳述し、決して商品窃取の目的を以って行動したこ
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