なほ三枚の本の表紙の図案を作つた。その一つは藍、紫の実を垂らしたひいらぎなんてん[#「ひいらぎなんてん」に傍点]の葉と茎とである。これは家の門内の籬に沿うて植ゑられてゐるものである。地《ぢ》の色は濃茶《こいちや》である。それに若茶柳から松葉納戸・明石鼠に至るまでのさまざまの色をした葉が乱れ垂れるのである。
も一つは藤の葉である。縁日の鉢植ゑを庭に移すと一二年はなほ花を開いた。近ごろは花は咲かず、其葉、其蔓が低く地を被ふ。或る十月の日曜日の朝ふとそれに目を移すと、黒く古ばんだ硬い葉の間に、杪春の新芽を思はせるかよわい小葉が雑つてゐる。其一つ一つの葉弁のねぢれた様はロダンを酔はしめた裸女の腰のひねりにも似ている。これを写さでは有るまいと思ひ、鉛筆で輪廓を取り、好半日を費した。それからは、夜、為事をしまつたあと、三十分、一時間づつ地の色を伝した。葉・茎を白く抜くのであるから、幾夜かを費した。そしたら白く抜けいでた葉に彩色をするのが惜しくなつた。甚だ不倫な言ひざまで恐縮の極であるが、わたくしはレオナルドオのモナ・リザよりは寧ろ其サン・ジエロニモの画を愛する。レオナルドオのあの鋭くして柔軟な素
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