と其時考へた。そして十月の或る日曜日にそれを為上げた。まだ試《ため》しずりを見ないからどういふ風に出来るか分らない。始めはもち[#「もち」に傍点]の葉を克明に写して暗い背景としようと思つたが、あまり煩はしい故、藍一色にした。
それからは天下の草木、どれを見ても表紙の図案に見えぬものは無い。殊におほけたで[#「おほけたで」に傍点]の紅花のふさふさと垂れるのは頗る食慾をそそるのであつた。道端に有るゆゑ日々目に附く。
おほけたで今日も盛りと見て過ぐる
このおほけたで[#「おほけたで」に傍点]の有る庭の近くには山茱萸の木が有る。さんしゆゆ[#「さんしゆゆ」に傍点]は東京に在つては、とさみづき[#「とさみづき」に傍点]、いぬのふぐり[#「いぬのふぐり」に傍点]などと共に春を告げる花である。嫩緑、新芽を思はせるさんしゆゆ[#「さんしゆゆ」に傍点]の花の一杯に咲き乱れたところ、ゆつくりと写生して見たい。
同じく季節は違ふが、古び汚れた白茶色の壁に蔦の茎が蔓延し、初夏嫩葉をつけたのは自らなる唐草模様である。
今年であつたか青龍展に姫女※[#「※」は「くさかんむり」+「宛」、第3水準1−
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