デルについて裸体を写すの便宜が無かつたからである。結果到着したところは、わかむきの銘仙の柄に見るやうなやたら縞であつた。裏打をした宣紙に臙脂・代赭・藍・浅緑・黒など、太い縞細い縞を定規で引きまた染めると、其堺目が程好くにじんで好看を呈したが、之を板木に彫ると境界が鋭く硬くなり、且つエオジン、インヂコの絵具では日本絵具の生臙脂・藍で画いたやうな色調にはならなかつた。且つ画稿では見立たなかつた平行線のゆがみが気に懸つて見え出した。
これには扉の図案をも添へ、カルトンの体裁をも考へた。実際この二つのものを考へてやらないと好い釣合は得られないのである。
そのうちに、日夏耿之介君から手紙が来て、中央公論社から出す其選集の表紙の模様をつくれと云つて来た。それはちやうどわたくしの選集と同じ型であると云ふ。小堀杏奴夫人がわたくしを尋ねられたのは、それより後の事であつたが、座敷に灯がつき、庭が暗くなると、思ひかけず、履脱《くつぬぎ》の上にあつたベコニアの葉が光り出した。背景になるもち[#「もち」に傍点]の繁みが黒ずんで来たので、ベコニアの葉の紅緑がくつきりと明るく目立つたのである。是れは表紙になる
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