たの日に会ひませう。
菊枝 それなら祖母様にも宜《よろ》しう云うて下され。
[#ここから3字下げ]
二人相別る。菊枝は下手より退場。忽《たちま》ち千代けたたましく、
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
千代 はれ、まあ、常丸。常丸。……はて、常丸としたことが、やよ、常丸。常丸。――(ふらふらと門に歩み寄り、内を覗ひながら。)はて悪いことを致いた。ここが南蛮寺の門ぢやとは、つひぞ気付かいでおぢやつたが……さてはこの門めが、中に引込んだと見ゆるよ……。
[#ここから3字下げ]
千代、逡巡《ためら》ひながら二三歩門内に進み入り、『常丸、常丸』と呼ばう。答なし。憂はしげに、再び門外に出づ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
千代 四辺《あたり》には人も見えぬ。はて奈何したものでおぢやらうな。中に入るのも後《うしろ》めたし……。
[#ここから3字下げ]
思付きたるさまに、急ぎ内より離れ来り、往来に立ち止まり、下手の方を呼ばう。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
千代 おおい、おおい。先
前へ 次へ
全44ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 杢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング