まぢや? そんなら起請か、懸《かけ》もするてや、好《よ》し、天も地も照覧あれ、指かけ小かけ、嘘云ふものは手の指腐され、好し、そんなら入《い》つて見よう。嘘ぢややら、指十本腐るぞよ。……(常丸門内に入る。二人の女未だ気付かず。)
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千代 まあ、ほんまに夫れは怪《けし》いことぢや。今年は何やら可厭《いや》な年ぢや。出来秋ぢや、出来秋ぢやと云うて米は不作。
菊枝 加旃《それに》また加茂川の大水《おほみづ》。――妾《わらは》が隣の祖母様《ばばさま》は、きつい朝起きぢやが、この三月《みつき》ヶ程は、毎朝毎朝、一番鶏も啼かぬ間《あひだ》に怪《けし》い鳥の啼声を空に聞くといふし、また人の噂では、先頃《さきごろ》摂津住吉の地震《なゐ》強く、社の松が数多く折れ倒れたといふこと……。
千代 ほんまに気味わろいことぢやのう。あれ、また話で時を費《つぶ》いた。妾は今日は急ぐほどに、之で御免蒙りませう。お前も精々|体《からだ》を大事にしや。命あっての物種ぢやのう。さらばま
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