如く、つぶつぶと独語《ひとりご》つ。)……御《ご》、御先祖《ごせんぞ》への申訳ぢや……御、御、御先祖への申訳ぢや……(よろめきつつ再び上手の方より去。)
第一の所化 (一歩前に踏み出し乍ら)やれ、口惜《くちをし》や、南蛮寺の妖術めに化《ばか》されておぢやつたとは。
長順 (夢中に老いたる侍の後を追ひゆきて)お侍、些《ち》と待たれい。
第一の所化 (忽ち長順の領《えり》を捉へて)こや、長順。
長順 離しやれ、そこ離しやれい。
第一の所化 お主《ぬし》は血相かへて何する積りぢやえ。
長順 ふむ、何を隠さう――徒《いたづ》らに俗世間の義理人情に囚へられ、新しき教の心もえ覚《さと》らぬ俗人|原《ばら》、あの老耄の痩首|丁切《ちよんぎ》り、吉利支丹宗へわが入門の手土産《てみやげ》にな致さむ所存。
第一の所化 何と、吉利支丹へ入門とな。
長順 新しき不可思議を某《それがし》は望むのぢや。
第一の所化 やあい、同学衆よ。長順が吉利支丹へ改宗ぢやと申し居るわ。
所化等 え、邪宗へ改宗ぢやてや。
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再び門内に楽声。あこがるるが如きろまんちつしゆ[#「ろまんちつしゆ」に傍点]の曲節。
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