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長順 おおあの声にあくがるるのぢや。
乗円 (痛ましき顔容をなして)長順!(長順眼差を落す。)
学頭 如何に方々、長順が堕落の程はもはや一毫の疑も容《い》れぬ所ぢや。容捨は無用ぢや。棒を与へよ。
第一の所化 長順今ぞ思ひ知れ!(杖を以て打たむとす。)
乗円 (之を遮りて)ま、ま、待たれい、方々、第一の笞《しもと》はこの乗円に任されよ。――やよ、長順。煩悩六根の為めに妨げられたる其方《そち》の心では、わが言《こと》はえ分るまいが、古き法類ぢや、少時《しばし》わがいふことを聞かれよ。其方とわれとはふとしたる奇縁により、兄弟も及ばざる交を結びたりしが、かの時誓ひし言の葉は、まだえ忘れは致すまいがな。
長順 ふつ。
乗円 大恩教王の御教は日月輪《にちぐわつりん》の如く明かれども、波羅密多《はらみた》の岸は遠く、鈍根痴愚の我等風情に求道の道は中々の難渋、それ故に互に諫《いさ》め励まし、過あれば戒め懲《こ》らし、よしや歩《あゆみ》は遅からうとも、いやさ精進懈怠《しやうじんけたい》はあるまいと、誓ひし言葉を覚えて居やるか。
長
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