等の祈祷唱讃の声、諸人の驚き叫ぶ声、紛々囂々ととだえとだえにひびらぐ。
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長順 ふつ。其方はお鶴どのではござらぬか。
白萩 さういふお前は源さまか。
長順 あな、珍らしや、お鶴どの其方は健《まめ》でおぢやつたか。
白萩 あれなつかしや源さま。
長順 最早其方はこの世にはおりないものと思ひあきらめ……
白萩 怨めしや源さま。
うかれ男 やよ白萩、時が遅うなるわ、早やう罷《まか》らうと申すにな。
長順 (回想に耽るが如く夢幻的に、)彼《か》の時其方は全盛の歌ひ女《め》、殊に但馬守殿が執着のおもひ者、われは貧しき沙門の小忰《こせがれ》、どうせ儘ならぬ二人の中、思ふが迷《まよひ》と人にもいはれ、
白萩 お前はあむまり独合点《ひとりがてん》……
長順 え、ままよ、さうなりや人をも殺し、われも死に、無間《むげん》地獄に落ちば落ちと、暗夜《やみよ》の辻にもさまよひしが……
白萩 源さまお前もあむまりな、などて一言その事をわたしに明してくれなんだ……
長順 思へば女一人のために、身を殺さむは、さすが世間の手前、人の思はくも恥かしく、
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