り、後景なる寺の石垣|模糊《もこ》として遠く退き、人々の形も朦朧として定かならず。楽音の旋律更に激越想壮[#「想壮」はママ]の度を加へ、之に諧和せざる梵音はた三絃の声も、囂々《がうがう》として亦その中に雑《ま》じる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
乗円 遠離一切顛倒夢想《ゑんりいつさいてんだうむさう》。
伊留満喜三郎 ろうだつと[#「ろうだつと」に傍点]、どみのむ[#「どみのむ」に傍点]、おむねす[#「おむねす」に傍点]、でんと[#「でんと」に傍点]。
乗円 究竟涅槃《くきやうねはん》。
[#ここから3字下げ]
忽ち所化長順群より離れ、舞台の中央に来り、舞妓白萩にすれ違ひ、
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
長順 ふつ、其方《そなた》は……
[#ここから3字下げ]
白萩袖を翳して退く。これより長順は白萩を追ひ之にからむ。うかれ男その間に入りて之を妨ぐる仕草。この三人の間に往々また伊留満の姿現はる。右手に高く金十字架を捧ぐ。金の十字架煌々と光る。沙門等は下手の方《かた》、程よき所に立ち並ぶ。楽声、沙門、伊留満
前へ
次へ
全44ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木下 杢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング