あれ、やあれ。そこな痴人《しれびと》、知らぬ為《まね》して聞いてあれば片腹いたい妄言綺語《まうごんきご》。
伊留満喜三郎 何、妄言綺語とな。雑言も程こそあれ、世にも恐ろしき神の威霊の近き験《しるし》を今見ざるか。かかる賤しき油売の姿にわが身を扮《や》つしてあれば、貴き言葉《ことば》も疑はるるなれ――(伊留満喜三郎俄に油売の服装を脱ぎて緑の地に金糸の縁飾をとりたる邪宗門僧侶の職服にかはる。右手に高く金色の十字架像を翳《かざ》す。)今までは包みこそ居《ゐ》れ、何か隠さむ。われこそ真は大神でいゆす[#「でいゆす」に傍点]が僕《しもべ》、伊留満《いるまん》あんとにゆす[#「あんとにゆす」に傍点]でおぢやるぞ。
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人々たじろぐ。或は『じええずす、まりや』などよぶ。
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伊留満喜三郎 それわが神でいゆす[#「でいゆす」に傍点]は天地六合の唯一神、宇宙万象の能造の主、天地空寂のうちに万象を造り、かるが故に日月星宿光を放つて、明歴々として東湧西没の時を違へず、地には千木万草あつて、飛鳥落葉の期を誤たず。百万の烝民
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