門内楽声(たとへば独逸国リヒヤルト、ストラウスがツアラツストラの曲の末段の如き)嵐の如く高まる。
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菊枝 (うち驚きて)や。これは。爺《おやぢ》さまいのう。
伊留満喜三郎 (菊枝を遮《さへぎ》り)見やれ、こりや神罰ぢや。南蛮寺の罰ぢや。
菊枝 何と、それは真かいなあ。
伊留満喜三郎 大神でいゆす[#「でいゆす」に傍点]の威力の恐ろしさを、遅かりしな、今覚りしか。素《もと》より不信の極悪人《ごくあくびと》、此儘に打ち捨て置き、風来犬《ふうらいいぬ》にな食す可きなれど、今日は異例の情をもて、聖《さんた》まりや[#「まりや」に傍点]に祈りを上げ蘇生《よみがへ》らして呉れむずらむ。(老いたる男の傍に進み寄り口に呪文を唱ふ。老いたる男目ざむ。)
伊留満喜三郎 何と、老耄《おいぼれ》、正気に帰つたか。
老いたる男 (いぶかしげに四下《あたり》を見廻はす貌)ここは何処《いづこ》ぢや、何処ぢや。
伊留満喜三郎 ここは四条の真ン中ぢや。南蛮寺の門前ぢや。
老いたる男 (驚き逃げ去らむとして)何ぢや。南蛮寺の門前ぢやてや。
伊留満喜三郎
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