之をかばふ。)
乗円 ま、ま、待つて下されい。之は長順の正気では御座りませぬ。必定《ひつぢやう》悪魔|波旬《はじゆん》の仕業《しわざ》。……(忽ち南蛮寺の門に気付きて)あれ、此処は邪法の窟宅《くつたく》、南蛮寺の門前なるよな。さてこそ必定邪法の手練《てれん》……
長順 ……あれ唄が聞こえるわ。いとしい人が呼ぶさうな……
乗円 (憂はしげに)長順、長順。其方はまた迷うたさうな。修行が足りぬぞよ、修行が足りぬぞよ。
長順 乗円、其方もわが心はえ汲《く》むまいな。(心弱く乗円の腕にもたれる。)
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忽ち南蛮寺の前にてけたたましき響す。沙門の一行門前なる群集に近づく。
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老いたる男 (再び大槌もて門扉をうつ。)はて、さて怪《け》しい扉ぢや。え、まだかや。まだかや。うん、や、ほい。南無阿弥陀仏。はら、やいの、おう。南無阿弥陀仏。え、まだかや。まだかや。はら、やいの、おう。南無阿弥陀仏。
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老いたる男、最後の一撃をなさむとする所に、忽ち眩暈《めくるめ》き倒れ、槌は手を離れて地上に落つ。

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