牟尼《せいきやぼち》は畢竟《ひつきやう》愚人、苦労性なる摩訶陀の王子、天台智者は大法螺吹《おほぼらふき》、まつた伝教は山師の支店《でみせ》。
第一の所化 黙り召され!
長順 何とて黙らうぞ。仏陀の教は嘘八百、人を欺《だま》いて可惜《あたら》しき若き命をむざむざと枯木の如く朽《く》ちさす教……(やうやう夢幻的になり)某《それがし》在家の折柄は蝴蝶は花に舞ひ戯れ、鳥が歌へばわが心、君の心もうち和《なご》み(小唄の節になりて)花の降る夕暮は、思へど思はぬ振りをして、喃《なう》、思ひやせに痩せ候ひしが……(再び我に返りたるが如く)教観《けうくわん》二門が何の真諦《しんたい》、三観十乗が何の悟道《さとり》。某《それがし》山に入りてより、四年四月《よとせよつき》は日夜撓まず勤行《ごんぎやう》苦行、ひたすらに頓漸《とんぜん》秘密の理を追へども……(また咏嘆の調にて)かの日の幸に比べむ幸なく、わが美《よ》き人に似る神も……
乗円 長順真に正気でか※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
長順 正気で無うて何としようぞ。
第一の所化 聞きしにまさる長順が乱心。今は堪忍の時ならず。(杖もて長順を打たむとす。乗円
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