げ]
楽声快活に、敬虔に、やがて急激に、やや誘惑的に、更にまた憂鬱に。
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菊枝 して、して、……あの千代どのもおぢやるかいな。
伊留満喜三郎 千代殿とは何ぢや。何処の人ぢや。
菊枝 まだ二十五とはならぬ女子ぢや。なれども二人の母人《ははびと》ぢや。その妹の子はこの春死んでおぢやつたのぢや。
伊留満喜三郎 おぢやるわ。おぢやるは。それもおぢやるわ。
菊枝 倅《せがれ》の常丸どのもおぢやるかいのう。
伊留満喜三郎 おぢやるとも、おぢやるとも、皆《みんな》おぢやるわ。
菊枝 はれ。お祭を見ておぢやるかいのう。何とまあおとましい人々ぢや。此方《こなた》は強《きつ》う案じておぢやつたのになあ。
伊留満喜三郎 いや、皆はもう神さまになつて、美しい翼が生えておぢやるのぢや。はれ、美《うるは》しい行列ぢや。歌唄うておぢやるわ。
菊枝 何と戯《たは》けた事をいふ人ぢや。妾は嚮《さき》から、真《まこと》か、真かと聞いておぢやつたのに。おとましいことぢや。
伊留満喜三郎 はれ黒い尼達が来ておぢやつた。日が曇つた……。
うかれ男 やい。油売
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