行き去らむとせし人々も踵を返す。
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第一の人 何ぢや、賑かな楽声《がくじやう》ぢや。
第二の人 寺の中に何かおぢやるさうな。
第一の人 何ぞ珍らしい異宗の祭典と見えるよな。些《ち》と覗《のぞ》いて見たいものぢや。
第二の人 なれども門は閉されたり。はて、如何《いかが》致いてか内を見る工夫はおぢやるまいかな。
伊留満喜三郎 (突然門扉の内に屈《かが》みて)やいの、やいの、皆《みな》の衆よ。ここの門の扉《とびら》に細い隙がおぢやつたぞや。はれ、見られい。や、何とまあ美しい絵ぢや。唐、天竺は愚か、羅馬《ろおま》、以譜利亜《いげりや》にも見られぬ図ぢや。桜に善う似た麗《うるは》しい花の樹《こ》の間に、はれ白象が並んでおぢやるわ。若い女子等が青い瓶から甘露《かんろ》を酌《く》んでおぢやるわ。赤い坊様《ぼんさま》ぢや。噴泉《ふきあげ》からさらさらと黄金が流るる。真昼のやうに日が照るわ。はれ、見られい、見られい。翼《はね》の生えた可愛い稚子《ちご》が舞ひながらおぢやつたわ。はれ、皆が一斉に祈を上げておぢやるわ。
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