男 (故更に厳粛の貌を装ひ)や、それこそは邪法の内秘、吉利支丹《きりしたん》宗門の真言《しんごん》、軽々《かろがろ》しうは教へられぬ。したが白萩よく聞きや。お許《もと》の怨《ゑん》じはまこと心底の胸から出やるか、乃至《ないし》は唇の面《おもて》からか。いやさ、それを告げいでは、ちやくと教へられぬわい。
白萩 知らぬ、知らぬ、教へなうてもよいわいな。
うかれ男 はてさて、之《これ》は剛《きつ》い返答。――(忽ち側を向き大声)こりや!
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嚮《さき》よりこの一群に、着きつ、離れつ随ひ来れる油売、実は伊留満《いるまん》喜三郎、油桶は持たで、青き頭巾かぶれる。叱咤せられ、袖|翳《かざ》してすさる。
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うかれ男 はて怪《いぶ》かしい男共《をのこども》ぢや。
白萩 あの男なら、とうから我等の後に随《つ》いて参りました。気味わろいことぢやわいな。
うかれ男 何の、措《お》け、措け。
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忽ち寺の内に遠波《とほなみ》のごとき、奇しき妙音楽起る。(羅曼的《ろまんちつしゆ》なる西洋管絃楽)、さきに
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