見られたやうな、光線の為にコバルト色に輝いて居る一群の草刈女が、絵の中でのやうに草を刈つてゐる。刈られた草は山に積まれる。日は司法省の屋根の上に出てゐるのだから、柵に立つてゐる人には、枯草の、日を受けない陰の一面が見える。枯草の山の周囲の縁は黄金色に輝いて居る。陰になつた部は、言葉では到底形容の出来ない色に曇つてゐる。せめてあの色調――あの枯草の束だけでも、心ゆく許りに、日本の油絵の上に見たいと望まずには居られなかつた。
 司法省、裁判所が日かげになつて漠々と紫色に煙つて居るのも美しい。その下の一列のポプラスの梢の蛍のやうな緑金色の輝きも心を引く。殊に目の前に、柵に沿うて横はつてゐる木は、漆に似て更に細かい対生葉を有つてゐたが、黄いろい枯葉を雑へた枝ぶりは絵画的に非常に心地がいい。丁度中から出て来た園丁に其名を尋ねたら「しんじの木つてえです。」と答へた。
 草の中に子供が遊んでゐる。白い蓋をした揺籃車の中に嬰児が眠つてゐる。遠い小丘の下に盛装した一群が現はれた。――凡ては秋の朝の公園の印象を語るに適当な材料であつた。自分は油絵かきにならなかつたのを悔んだ。
 唯出来る丈長く此印象を銘じ
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