ェ、今第一の茶が同邦人の前に配せられた時一齊に手を叩いた。老いたる異人は顏を赤めて快活に笑つた。
 兎に角女異人(その對照として黒の裝束の男達も可いが)と舞子の群は、その共にでこでこした濃厚の裝束で西班牙のスロアアガの畫もかくやと思はれる美しい畫面を形造るのである。それに蝋燭及び電燈の光が一種の雰圍氣を供給して居る。
 一人の慾張りなばあさんが近隣の二三の人から團子の模樣のついた素燒の菓子皿を貰ひ集めた。するとその近くの西洋人の一群が、自分のも皆んなそのばあさんにやらねばならぬと思つたと見えて、その方へ運びためたので、少時にしてばあさんの卓の上には十數個の皿や食ひ掛けの饅頭が集つて、堂内は忽ちどつと一齊に起る笑聲の海となつた。意味を解しない異人達は自からも赤い顏になつて笑つたのである。
 若し夫れ是等の雜沓中で、いやに通を振り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]す氣のきかない一大阪人を巧みに描寫したならば、確かに、膝栗毛以上のニユアンスの藝術を作り出す事が出來るだらう。この餘りに粹でも意氣でも無かつた大阪人は、大都會の人といふ自慢と、恣なる言行とで、屡多くの人の反感と嘲笑とを招い
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