ヘ是等の人々によつて占領された。海岸に立つ二階屋の窓には女子供、新しき※[#「女+息」、第4水準2−5−70]《よめ》――さう云ふ人達が首を出す。而して實際こんな狹い町では何處《どこ》の誰が何處に居ると云ふ事が愉快なる穿鑿の種になり、それが歸宅の後家人に告げられると、女達の夜の爐邊の話題を賑かし、それからそれへの穿鑿が更に人の家の親類縁者の事に移り、かくて話はやうやう一つ前の人一代《ジエネラシオン》に飛ぶ。そして遂に日常の話に物語の情調を添へるに至るのである。
 陸の船の上にまた二人の漁夫の子が乘つて居た。その一人は羨ましさうに他《ほか》の子の持つ二つの小さい薄荷水の罎を諦視《みつ》めて居た。遂には彼はそれを要求するに至つた。そこで小さい爭が始まる。然し結局兄と見えた一人が一本を配ち與へる事に極まつた。が、與へるその前に罎中の大半の靈液《ネクタアル》は傾け盡されたのである。此 〔e'pisode〕 も亦、待ちに待つて退屈しきつた人々には恰好な笑艸であつた。けれども一罎を貰ひ得た本人は多少の物議の末に、はや甘んじて、もう勿體なささうに罎の口を嘗め出したのである。
 船唄と鹿島歌との掛合の間
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