ワだ全國の諸所に殘つて居るかも知れないが、然し盆踊はつい近頃まではあんなに盛であつたのが、今は殆ど全廢してしまつた。此種の祭典もやがて遠からず無くなつてしまふのだらう。だから予も冗漫を厭はずに目に見た所をそのまま書き付けようと思つたのである。
それから予等は神輿の跡は追及しないで、後にその着く可き海岸で待つて居た。をととし見て覺えて居る所では、やはりそこに踊がもう一度あつて、それから裸體の男が三十人許りで御輿と人々とを船に乘せるのであつた。
やがてそれも濟んだと見えて、岸に繋いであつた船が動き出した。怪しい人のどよもしが遠くから聞えて來る。船には各二本の竹竿を立て、それに燈籠と幟とを付け、數條の造花をしだらした。この二艘の主な船を中心にして、其他四五艘の小さい船がそれを取り卷く。また別に一艘、彩色を施した彫物の屋臺で飾つた、俗に「御船《おふね》」といふ船がある。それには舳の所に肩衣を付け大小を差した人が坐つてゐる。
是等の船が動き出して、艪を漕ぐ人の姿は見えるけれども船は中々に近よらぬ。こなたの海岸には見物の群が増してはや五六百の人を數へられるやうになつた。陸に揚げてある多くの船
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