活焉u御神體」を崇め、それを喜ばすが爲めに行はれたのだと云ふ事を發見するに至る。そこで人の注意が此御神體の上に集るのである。
 鳥居を潜つて又一つ石段を登るとそこにまた鰹の幕や、蛭子の面で飾られた拜殿があつた。榊が立ち、提灯が弔るされる。一群の人は亦此の處に於ても堂内の一物に注視して居るのである。
 即ち新しき筵を敷いた神殿の床の上には、黄ろい綸子や藍の玉蟲の綾などの直衣を着た禰宜が色斑らに並ぶ。其側には脇差をさした漁夫が禮裝して坐る。此際予の氣付いた所によるに、黒羽二重などの羽織に大きな紋のついたのは可いが、下の着物は淺黄の辨慶とか、淺黄のあらい薩摩縞のやうなのが多かつた。親讓りの絲織の晴衣と云ふやうなものは固よりあつたが、まだ新しいのに年に似合はず、派手なのがあつたのである。かかる漁夫の眼に媚びるやぼな色や縞柄の着物を、少し窮屈に着て居るのを見てさへも、何か妙な哀深い心持になつた。
 而して是等の人は、一種の莊重なる儀式を以て御神體を御輿の中に移す。「今御輿へ魂を移したぞ」といふ私語が子供等のうちに擴まる。で皆な感動したらしい顏付をする。
 神秘――昔から今に懸けて地上のあらゆる人
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