Xの求めあかした者はそれでは無いか。原子分子の假説で宇宙の規律のやや整然と説明されさうになると、人々は驚いて新なる不可思議を求める。そして新に發見した電子といふ鍵で第二の扉を開けようと努力する。宗教藝術は勿論の事であるが、一見 niladmirali に見える朴訥なる科學も亦人間の世界に神秘を餘計にしようと努力するやうに見えるのである。所で予は此魂移しの儀式に於て、あまりに手輕に神秘《ミスチツク》を求め得て、それで滿足した昔の人の寛濶を思うてほほ笑まずには居られなかつたのである。魂移しが濟むと突然鐵砲がなる。
「え、どつこい、どつこい」
「そおらああ……」
と、ちやうど唄の應答の半であつた踊の人々は驚いて踊を休めてかたまる。坂下では子供等がけたたましく法螺の貝を吹き出す。三十人許りの壯者に擔がれた神輿は拜殿前の石段を下つて鳥居の下の廣場に出る。群集が道を開《あ》ける。赤、緑、黄色の旗がゆらゆらと動き初める。
御輿は崖の上の狹い平地に出た。そして蹌踉《よろ》け出した。年老いたる二三の漁夫は心配さうに小走りに走つて往つて、この暴れる神體を宥めようとした。
「ぶうぢやつかん、ぢやつかん、
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