ス菫の花の青色でぎざぎざと大山一帶の 〔modele'〕 が平面的に現出した。殊に空は、それも水平線に近き所は、ちやうど試驗管の底に澱むヨオドの如く、重い鬱憂《メランコリツク》な紫に淀んでしまつたのであつた。
その時に、一つの汽船の陰がかすかなる陸影の裾に現はれた。
――ぶらぶらと川口に出たら、ごみを燒いたあとに、こんもりと灰が積んであつた。阿夫利神社神璽の印をおした紙、南無普賢大荒神守、火不能燒、水不能漂、とかいた護符などが散らばつて居た。是等は海濱に棲む、「心」を持つた自然が作りだす所の一種の分泌物である。
恰も遠き汽船に第一の汽笛を鳴らしたのである。
[#地から2字上げ](正月二日)
今日は午後偶然に、例の萬祝《まいはひ》を著た人々のぞろぞろと街頭を通り過ぐるのに遭遇した。この二十人ばかりの人の中には子供も大分雜じつて居た。おとなの人々は、多くはその上に黒い紋付を羽織つて居たが、兔に角、七子か羽二重の紋付の裾から紅緑の彩色の高砂の尉姥、三番叟、龜に乘る人、「大漁」の扇を持つ人、また龍宮、寶船、七福神などの模樣の出て居る所は、また南國の海邊に似付かはしい「眞面目《まじめ》」
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