もつと山深くはひらないでは見出されない。
かかる因縁の有るすかんぽ[#「すかんぽ」に傍点]だから學校の庭にそれを見付けると、ああこんな處にも生えてゐると思つて、なつかしく感じたわけであつた。そして試みに其一莖を取つて口に入れて見ると、唯酸いばかりでたいしてうまいとも思はなかつた。子供の時とおとなになつてからとは味感も變つて來るものかなと其時は考へた。
話はまた小學校時代に戻るが、やはり春の終りの頃、山※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、260下−3]りをする父に從つて山澤の杉、新墾の傾斜地の檢分に往つたことが有る。家からは下男も一緒であり、途中からは、山の番を頼んである「宗さん」といふ人が加つた。杉の樹の檢分と云ふやうな爲事《しごと》はちつとも面白くなく、退屈し切つたが、その時、澤のきれいな水のほとりで喫した中食の事をば、いまでも朦朧と囘想することが出來る。
竹の皮を擴げるとま白い米の三角の握飯が三個現はれて來る。其一面にはつぶさない味噌が塗つてあり、その一部分が黒く焦げてゐる。わきにうす赤い肉の鹽鮭の切身と竹の子の煮たのとが添へてある。
「はれ、お前の辨
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