として僕ははやく此草の存在に注意した。其花の莖とたんぽぽ[#「たんぽぽ」に傍点]の冠毛《くわんまう》の白い硝子《ガラス》玉とを配して作つたスケッチは齋藤茂吉君の舊い歌集の※繪[#「※」は「插」のつくりの縦棒が下に突き抜けている、259中−18]として用ゐられた。
此植物は僕には舊いなじみである。まだ小學校に上つて間もない時分、年上の惡少にそそのかされて、春の末、荒野《あらの》の岡に行つた。
「紙に包んでな、鹽を持つて行くのだよ。」
臺所の戸棚をあけて、鹽の壺から鹽を出して紙に包むと云ふ事が、この時ばかりはとても難澁な爲業《しわざ》であつた。そこに人の居ないのをうかがつて、またやがてそこに來る人のけはひのせぬのを確めて、臺所の押入の戸をあけるのである。
匙《さじ》が壺の縁に當つて鹽の粉が敷居の上にこぼれる。指先につまんで紙に取つてもなかなか取りきれない。人の足音がし、急いで懷に入れた紙の袋から懷の中に鹽がこぼれたらしい。
「お前何をしてゐる。」
母だつたので安心した。何も返事をしなかつた。萬が一の爲めに辯解の用意はしてあつた。水が飮みたくなつたからコップを出さうと思つて鹽の壺をた
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