んのね、結婚してから。』
と男にも思出して、種々のことを、結婚前の楽しかったことまでも、思出して下さいと云ふやうに云った。
『さうだなァ。』男も眼を上げて云った。
『たった三年にしかならないんだな。けれども、俺たちはいろ/\苦労したなァ。』
『本当にね。』彼女は、また眼を伏せてあの絵を見ようとした。が、すぐに、
『けれども、まだ三年しか経たないんですものね。』と、なにか大きな、彼女にはわからないけれども、なにか大きな希《のぞ》みを彼に話さなければならないやうに瞳を輝かした。
『さうだ、一日々々いろ/\なことに疲らされなやまされ苦しまされても、二年はもう過ぎたんだからな。もうしばらくすると、坊やも歩るくやうになるんだから。』
男は、手持ぶさたのやうにスプーンを持って立ってる子供を見た。彼女は、すぐに嬉しさうに、
『坊や。』と大きな声を出した、子供はそれと同時に大きな叫声を上げて、母親の顔を見ながら、
『うま/\/\/\。』とスプーンをテーブルにたゝきつけた。
父親は、あわてゝ子供の口に御飯を入れてやった。
彼等は、やがて箸をおいた。
『もう少しの間だ。』男は強く独言のやうに云った。
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