後の三年ばかりの生活にすぎない。
彼女は、いつとなく何物にか気をとられたやうに、ぼんやりと遠くの方を見てゐた。彼女のその静かな心が、いつか幻のやうな絵を見てゐたのであった。
それは淡暗い光りのなかに、そしてその光りのやうに物静かな三人の人たちが、より合って頭をあつめてながい物語りをしてゐるのだった。その物語りは、あまりにながく絶えることなく彼等の間につゞけられてゐるやうであった。そしてその物語りのなかには、すべて世の中の善や悪や、かなしみや苦しみ怒りもなやみも、よろこびもすべてが語られてるやうだった。けれども話す人も聞く人も、たゞ静かに安らかにぢっと微笑《ほゝゑみ》をつゞけてゐるばかりであって、彼等は少しも動かなかった。首をかたむけて眼を伏せながら、そして、そこにはたゞ静かななつかしみと、許しとが彼等をつつんでゐるやうに見えた。そしてまたそこには深い/\安らかさが彼等のすべてに表はれてゐるのであった。
世の中の總ての事、人生は過去るであらう。そして過去った其日に初めて總てが、總ての事が懐しみと許しとに変る事だらう。そして其時彼等は永久に夜の様な安息の前にあるのであった。
遠い絵
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