椅子《いす》に腰《こし》をおろしてゐた。その四|角《かく》な彼女《かれ》が向《む》いてる硝子窓《がらすまど》からは、黄色《きいろ》い落葉松《からまつ》の林《はやし》や、紫色《むらさきいろ》の藻岩山《さうがんざん》が見《み》えて、いつもまち子《こ》が腰《こし》をおろして涙《なみだ》ぐむ時《とき》は、黄昏《たそがれ》の夕日《ゆふひ》のおちる時《とき》で硝子窓《がらすまど》が赤《あか》くそまつてゐた。まち子《こ》は、涙《なみだ》が浮《うか》んで來《く》ると、そつと瞳《ひとみ》を閉《と》ぢた。そして、いつまでもじつとしてゐた。初《はじ》めは、兄妹《きやうだい》たちの聲《こゑ》が隣《となり》の室《しつ》から聞《きこ》えて來《き》た。そして彼女《かれ》は悲《かな》しかつた。けれどもだんだん何《なに》も聞《きこ》えなくなつていつの間《ま》にか彼女《かれ》は、無《む》にゐることを覺《おぼ》えるやうになつたのであつた。
 まち子《こ》は、その時《とき》その足《あし》の爲《た》めに未來《みらい》がどうなるかとも考《かんが》へなかつた。自分《じぶん》がその足《あし》の爲《た》めに世《よ》の中《なか》にどんな
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