て、しばらく自分《じぶん》だちとはかゝはりもなく、行來《ゆきゝ》する人《ひと》の足音《あしおと》を聞《き》いてゐた。
『どうしませうね。』
やがて、まち子《こ》は立《た》ちくたびれたやうに云《い》ふと、末男《すゑを》は氣《き》づいてあてもなく歩《ある》き出《だ》した。しかし足《あし》の惡《わる》いまち子《こ》は、すぐに疲《つか》れるので、やがて靜《しづ》かなカフエーかレストランドに入《はひ》らなければならなかつた。
二人《ふたり》は、子供《こども》を抱《だ》いて明《あか》るい通《とほ》りから折《を》れて、暗《くら》い道《みち》を歩《ある》いた。暗《くらい》い所《ところ》に來《き》ても、銀座《ぎんざ》の明《あか》るみを歩《ある》く人《ひと》の足音《あしおと》は聞《きこ》えた。
『銀座《ぎんざ》はずゐぶん、いろんな人《ひと》が歩《ある》いてゐさうだわね。』
まち子《こ》は、夫《をつと》のあとから歩《ある》きながら、一人《ひとり》ごとのやうにきこえない位《くらゐ》な聲《こゑ》で云《い》つた。そして、あのぞろ/\と歩《ある》いてゐる人《ひと》の一人一人《ひとりひとり》の過去《くわこ》や現在《げんざい》、また未來《みらい》のことを考《かんが》へたらきつとお互《たがひ》になにかのつながりを持《も》つてるに違《ちが》いないといふやうな氣《き》がした。
やがて二人《ふたり》は、あるレストランドの二|階《かい》の一|隅《すみ》に腰《こし》をおろした。まち子《こ》は疲《つか》れた身體《からだ》をそつと椅子《いす》にもたれて、靜《しづ》かな下《した》の道《みち》をのぞこふと窓《まど》をのぞくと、窓際《まどぎは》に川柳《かはやなぎ》の青白《あをしろ》い細《ほそ》い葉《は》が夜《よる》の空《まど》[#ルビの「まど」はママ]に美《うつく》しくのびてた。
まち子《こ》は、いつまでもいつまでも誰《たれ》も何《なに》も云《い》はなかつたら、その青白《あをしろ》い細《ほそ》い葉《は》の川柳《かはやなぎ》[#ルビの「かはやなぎ」は底本では「かはなぎ」]を見《み》つめてゐたかもしれない。この川柳《かはやなぎ》も古郷《こきやう》に多《おほ》い。彼女《かれ》は、それをじつと見《み》つめてゐると、また昔處女《むかしゝよぢよ》であつた折《をり》に、病《やまひ》の爲《た》めに常《つね》に淋《さび》しかつた
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