にあやまりに行かねばならないと考へた。
 いつか、時は移った。きづついたものゝ終りを思はせるやうに日は凄く、真紅にたゞれて落ちて行く。西日が土の上にも赤い。雛はやはりトマトの影に小さな骸をよこたへてゐる。
 まち子の瞳は、いつか茫然とうるんで居た。そしてそのうるんだ瞳のなかに雛鳥の淡い褐色の初毛が、かすかに動いてるのを見た。
 彼女は、やがて驚いて眼を見はった。雛鳥は、むく/\と起き上って二足三足歩きかけては、よろ/\と倒れた。が、またよた/\と起き上ったかと思ふと、ふらりふらりと、恰も自分の身体を自分でもて遊んで居るやうに、また宙に迷ってる魂の為めにいづこともなく支配されて行くやうに、西日に彩どられた空と土との間にさゝやかな身体を一軒おいた隣りの自分の巣へと運んで行った。
 小鳥にとってトマトの葉かげに起き上らなかった暫しは、苦しい夢であったか、楽しい夢であったかわからないが、その夢は恐ろしい永遠といふものに結びつけられずに、とにかく目覚めた。彼女はぼんやりと雛鳥の後影を見まもりながら、雛鳥の夢に結びついた自分の罪悪がまた夢のやうに消えて行ったことを思って目を見はった。そして空を仰い
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