がするのであった。
 曇った日のせゐか、家のなかはうす暗かった。そしてなんとも知れず厭な寂しい心地がした、丁度家が地下にでも埋められてあるやうにじめ/\して、玄関などには白いかび[#「かび」に傍点]がはえてゐた。そしてなんの物音も聞えない、堪へがたく静かである。
 朝子はしばらく疲れきったやうに、ぢっと坐ってゐる。が、良人が雨戸をあけたり、裏口をあけたりしてゐるので、ふと気がついたやうに壁を見てはっ[#「はっ」に傍点]とした。壁には時子の楽書がたくさんに書かれてあった。朝子はまた時子が失はれてしまった後のやうな心になってしまってたのであった。あの驚き、あの苦痛、あの悲哀、時子が発病して殆ど危険に陥った時のことを思ふと、繁吉も朝子も、時子が失はれたものでなければならないやうな心がした。子供を失ったと同じ苦痛、同じ悲哀、同じ驚きを、彼も彼女も味はったのであった。彼等は、思ひ出したやうに、時子が死なゝかったといふよろこびを気がついたやうに話し合っては、夢からさめたやうに、はっ[#「はっ」に傍点]として静かに笑ふやうな場合が多かった。
[#一字下げ忘れか?200−14]朝子は總《あら》ゆる子供
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