らではあるけれども、右肩は全く切り取られてしまったように思われた。この死体もまた、血にまじった長い黒髪が乱れてぞっとするような心持がした。それに死体を家のなかに運び入れた人だちが、乱暴に二三尺も上から死体をほうり投げて置いたかのように、うつむきになって、身体《からだ》が斜にねじれているので、なんとなくこゝで殺されたように思われた。そして、左の手は掌《ひら》を上にして丁度腕の関節の所から現われて、紫色の影の中に黄色い手の色が物凄く浮いていた。
 楯井さんは、線香のもうなくなりかけてるのを見ると、自分で長い線香に火をつけて、急に男泣きに泣き出すと、ぽた/\と膝の上に涙を落した。そしてまた不意に気がついたように、落した涙をふきながら、
『誰れか、警察にやってくれましたかい、』
 と、云ったけれども、誰れに問うてよいのやら解らないので、急に語尾を低くおとしてしまった。
『馬で走らしたんだが、まだ帰って来るにゃはやい。』
 と、楯井さんには見馴れない一人の男が云った。
 あゝ何という可哀そうなことをしたんだろう。誰れがこんな目にあわせたんだろう。楯井さんには、殆ど想像もつかなかった。殺されたもの
前へ 次へ
全25ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
素木 しづ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング